東京地方裁判所 昭和62年(特わ)759号 判決
本店所在地
東京都台東区千束四丁目四二番一二号
有限会社岱宗
(右代表者代表取締役 保坂守)
本店所在地
同都同区千束四丁目一七番二〇号
有限会社日晟
(右代表者代表取締役 佐々木悟)
本店所在地
同都同区千束四丁目二六番一一号
有限会社明倫
(右代表者代表取締役 佐々木悟)
本籍
神奈川県横浜市鶴見区潮田町四丁目一五六番地の二
住居
東京都渋谷区広尾一丁目七番二号 藤和コープ三〇五号
会社役員
佐々木良隆
昭和一二年一月一日生
右四名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺尾淳出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
一 被告人有限会社岱宗を罰金七〇〇万円に、
被告人有限会社日晟を罰金八〇〇万円に、
被告人有限会社明倫を罰金一七〇〇万円に
被告人佐々木良隆を懲役一年六月に、
それぞれ処する。
二 被告人佐々木良隆に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人有限会社岱宗(以下「被告人会社岱宗」という。)は東京都台東区千束四丁目四二番一二号に本店を置く特殊浴場の経営等を目的とする資本金三〇〇万円の有限会社、被告人有限会社日晟(以下「被告人会社日晟」という。)は同都同区千束四丁目一七番二〇号に本店を置く特殊浴場の経営等を目的とする資本金三〇〇万円の有限会社、被告人有限会社明倫(以下「被告人会社明倫」という。)は同都同区千束四丁目二六番一一号に本店を置く特殊浴場の経営等を目的とする資本金五〇〇万円の有限会社、被告人佐々木良隆は右被告人会社三社の実質的経営者として右三社のそれぞれの業務全般を統括しているものであるが、被告人佐々木良隆は、
第一 被告人会社岱宗の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五八年一一月一日から同五九年一〇月三一日までの事業年度おける同被告人会社の実際所得金額が五九三三万四六三二円あった(別紙1昭和五九年一〇月期の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年一二月二六日、同都同区蔵前二丁目八番一二号所轄浅草税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が零で、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六二年押第五五六号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同被告人会社の右事業年度における正規の法人税額二四七〇万一二〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れ
第二 被告人会社日晟の業務に関し、法人税を免れようと企て、前同様の方法により所得を秘匿した上
一 昭和五八年四月八日から同五九年三月三一日までの事業年度における同被告人会社の実際所得金額が四一一四万九三〇円あった(別紙3昭和五九年三月期の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年五月三〇日、所轄の前記浅草税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が三四一万三一四五円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の3)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一六三一万一五〇〇円
(別紙4脱税額計算書)を免れ
二 昭和五九年四月一日から同六〇年三月三一日までの事業年度における同被告人会社の実際所得金額が三七一〇万八四〇三円あった(別紙5昭和六〇年三月期の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六〇年五月三〇日、前記浅草税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一九六万八一九四円でこれに対する法人税額が六〇万一三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一五〇七万五〇〇〇円と右申告税額との差額一四四七万三七〇〇円(別紙6脱税額計算書参照)を免れ
第三 被告人会社明倫の業務に関し、法人税を免れようと企て、前同様の方法により所得を秘匿した上
一 昭和五七年五月一日から同五八年四月三〇日までの事業年度における同被告人会社の実際所得金額が九三八四万九七四四円あった(別紙7昭和五八年四月期の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年六月二八日、所轄の前記浅草税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一六〇五万五二二七円でこれに対する法人税額が五六六万六七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の6)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同被告人会社の右事業年度における正規の法人税額三八三四万二〇〇円と右申告税額との差額三二六七万三五〇〇円(別紙8脱税額計算書参照)を免れ
二 昭和五八年五月一日から同五九年四月三〇日までの事業年度における同被告人会社の実際所得金額が三五九五万五三九六円あった(別紙9昭和五九年四月期の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年六月二七日、前記浅草税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三一四万九四六五円でこれに対する法人税額が七〇万九八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の5)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一四三一万八一〇〇円と右申告税額との差額一三六〇万八三〇〇円(別紙10脱税額計算書参照)を免れ
三 昭和五九年五月一日から同六〇年四月三〇日までの事業年度における同被告人会社の実際所得金額が三九四九万四〇五二円あった(別紙11昭和六〇年四月期の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六〇年六月二六日、前記浅草税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が二七一万七七七六円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の4)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一六一一万六九〇〇円(別紙12脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部につき
一 被告人佐々木良隆の当公判廷における供述
一 被告人佐々木良隆の検察官に対する各供述調書
一 笹沼憲治、相場幸子、仁木卓、飯塚誠司、佐藤孝子、佐々木悟の検察官に対する各供述調書
一 検察事務官作成の電話聴取書
判示冒頭の事実につき
一 登記官作成の各商業登記簿謄本
判示第一の事実につき
一 被告人会社岱宗の代表者保坂守の当公判廷における供述
一 矢島昇、保坂守の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の被告人会社岱宗に関する次の各調査書
1 総売上高調査書
2 給料手当調査書
3 交際接待費調査書
4 交際費損金不算入額調査書
5 繰越欠損金控除額調査書
6 事業税認定損調査書
一 押収してある法人税の確定申告書一袋(昭和六二年押第五五六号の1)
判示第二、第三の各事実につき
一 被告人会社日晟及び被告人会社明倫の各代表者佐々木悟の当公判廷における供述
判示第二の各事実につき
一 収税官吏作成の被告人会社日晟に関する次の各調査書
1 総売上高調査書
2 給料手当調査書
3 租税公課調査書
4 交際接待費調査書
5 受取利息調査書
6 繰越欠損金控除額調査書
7 交際費損金不算入額調査書
8 事業税認定損調査書
9 申告欠損金額調査書
一 押収してある法人税の確定申告書二袋(前同押号の2、3)
判示第三の各事実につき
一 収税官吏作成の被告人会社明倫に関する次の各調査書
1 総売上高調査書
2 給料手当調査書
3 退職金調査書
4 水道光熱費調査書
5 租税公課調査書
6 交際接待費調査書
7 地代家賃調査書
8 雑費調査書
9 受取利息調査書
10 交際費等の損金不算入額調査書
11 役員賞与損金不算入額調査書
12 事業税認定損調査書
13 寄付金損金不算入額調査書
14 申告欠損金調査書
一 押収してある法人税の確定申告書三袋(前同押号の4ないし6)
(法令の適用)
一 罰条
1 各被告人会社につきいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一、二項
2 被告人佐々木良隆につきいずれも法人税法一五九条一項
二 刑の選択
被告人佐々木良隆につき懲役刑
三 併合罪の処理
1 被告人会社日晟及び被告人会社明倫につきいずれも刑法四五条前段、四八条二項
2 被告人佐々木良隆につき刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の一の罪の刑に加重)
四 刑の執行猶予
被告人佐々木良隆につき刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、特殊浴場の経営を業とする被告人会社三社が判示のとおりの各事業年度において合計一億一七〇〇万円余りの巨額の法人税を免れたという事案であって、右脱税のほ脱率も平均すると約九六パーセントと高率である上しばしばいわゆる零ないし欠損申告も行うという破廉恥さを示すものであり、その動機も、各被告人会社の実質的経営者である被告人佐々木良隆が転業のための資金などを捻出しようとしたにすぎないのであって、格別斟酌すべき点などはなく、その手口は、特殊浴場の経営がもともと所得把握の困難な業種であることに目をつけ、税務調査を回避すべく秘かに所得秘匿工作用の事務所を借りるなどして売上の除外等の作業をした末関係書類を破棄するなど悪質なものであり、これらの諸点からすると、各被告人会社及びその業務を統括していた被告人佐々木良隆の刑責は重いと言わざるを得ないが、他方、各被告人会社はその後いずれも修正申告の上本件に関する本税・重加算税等を完納していること、被告人佐々木良隆においては捜査・公判段階を通じ本件各犯行を認める供述をするなどその非を深く反省、悔悟していること、同被告人には前科が全くないことなどの諸事情も認められ、その他同被告人の家庭環境等本件全証拠から推認される各被告人のために酌むべき一切の情状を考慮し、主文のとおり量刑した次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 反町宏 裁判官 髙麗邦彦 裁判官 平木正洋)
別紙 1
修正損益計算書
有限会社 岱宗
自 昭和58年11月1日
至 昭和59年10月31日
〈省略〉
別紙2
脱税額計算書
有限会社 岱宗
自 昭和58年11月1日
至 昭和59年10月31日
〈省略〉
別紙3
修正損益計算書
有限会社 日晟
自 昭和58年4月8日
至 昭和59年3月31日
〈省略〉
別紙4
脱税額計算書
有限会社 日晟
自 昭和58年4月8日
至 昭和59年3月31日
〈省略〉
別紙5
修正損益計算書
有限会社 日晟
自 昭和59年4月1日
至 昭和60年3月31日
〈省略〉
別紙6
脱税額計算書
有限会社 日晟
自 昭和59年4月1日
至 昭和60年3月31日
〈省略〉
別紙7
修正損益計算書
有限会社 明倫
自 昭和57年5月1日
至 昭和58年4月30日
〈省略〉
別紙8
脱税額計算書
有限会社 明倫
自 昭和57年5月1日
至 昭和58年4月30日
〈省略〉
別紙9
修正損益計算書
有限会社 明倫
自 昭和58年5月1日
至 昭和59年4月30日
〈省略〉
別紙10
脱税額計算書
有限会社 明倫
自 昭和58年5月1日
至 昭和59年4月30日
〈省略〉
別紙11
修正損益計算書
有限会社 明倫
自 昭和59年5月1日
至 昭和60年4月30日
〈省略〉
別紙12
脱税額計算書
有限会社 明倫
自 昭和59年5月1日
至 昭和60年4月30日
〈省略〉